クリスマスにまつわる心温まるエピソード

ある日の俺たち

年末になりまして、みなさまもお忙しくお過ごしだと思います。我が師も毎日せわしなく走り回っております。私はと言いますと、年賀状の締め切りを翌日に控え、こうやって宛名書きにいそしんでいるのでございます。ちなみに絵柄はエプソンのプリンターで印刷いたしました。
友人の春田君もうちにきて、ともに年賀状を作成しております。友が近くにいると、とても作業がはかどってよいものです。本来ならばもう一人の友人である柏羽君もやってくるはずなのですが、ヤツはいつも約束を守らないので少々イライラが募るものです。
「おい、空マジやべえ。てか星がやべえ。あれは超新星爆発だ」
遅れてきたと思ったら、いきなり大声で柏羽君が叫ぶものですから、せっかく宛名を書いていたのに、『様』の字のバランスがくずれ、書き直しです。
「いいから見に来いよ。やべえよ。」
と柏羽君は誘いますが、寒風吹き荒むなかに出たくはありません。ひょっとすると風邪をひいて明石家サンタが見られなくなってしまうかもしれないではないですか。
「いやだっつの。そんなことでいちいち外に出てたら年賀状間に合わねえよ。てか、お前も年賀状さっさと書けよ。ザラスシュトラのおっさんはこういう伝統行事をサボるやつが嫌いなの知ってるだろ。お前がトチると俺らまで迷惑かかるんだよ。」
春田も
「お前来るの遅えのに、声でけえよ」
とまったく整合性のないセリフを吐く始末。
ちなみにザラスシュトラのおっさんとは、われわれの通う学校の担任教師である。たいそうな名前だが、父親がペルシャ人かどこかのハーフなだけで、純粋な日本生まれ、日本育ち、恩年58になる純然たるおっさんだ。趣味は説教。
「いやいや、それがな、俺がこっちに来る途中、ザラスシュトラのおっさんに会ったんだけど、おっさんもこの星の光具合はやばいと思ったらしくてな、ドクターコパのところに相談に行ったら、『これは大変な事態です。直ちに三人の男子を西に派遣しなさい』とかなんとか言われたらしくてな・・・」
と柏羽が説明をしている途中、ドアの影からザラスシュトラのおっさんが飛び出してきて、
「子供は風の子元気の子!さっさと見に来いや」
なんて言いながら俺と春田の首根っこ掴んで外に引っ張り出した。寒い。おっさんは見るからに暖かそうなダウンジャケットを着て、どうせいつものようにハクキンカイロを仕込んでいるのだろうから寒くないけれど、俺らはさっきまでコタツに入って年賀状を書いていた身であるから、寒くて仕方ない。
「先生、一体何事ですか?」
「いいからあれを見ろ。」
俺と春田が西の空をみると、ぼんやりと輝く星が一つ。てか、大して明るくねえじゃん。火星じゃねえの?
「はぁ、あれですか?」
なんて春田がつぶやくが、そんなことはお構いなしに
「いいか、さっきドクターコパ先生のところに行って来たら、あの星は西のほうで大変なお方がお生まれになった証だとおっしゃる。そこでコパ先生は、誰かに誕生見舞いを持っていかせるように私に頼まれたのだ。」
「ドクターコパ先生って、コパ先生先生って意味になりませんか?それに本当にそんな大層な事態なんですか?ネットにはそんなこと書いてないですよ」と、俺が反論しても、ザラスシュトラの野郎は
「コパ先生がおっしゃるのだから間違いない。そこでお前ら、ちょっと西のほうまで誕生見舞い持って行け。そしたら今期の成績3割増にしといてやる」
なんという超展開。大体西のほうってどこだよ。どうやって行くんだよ。
「あのー、全体的に意味が・・・」
と俺がもう少し詳細を聞き出そうとしたら、春田の野郎が
「行きます。ってか、是非行かせてください。」
なんてほざきやがった。そういやこいつは今期の成績がやばいんだった。しかしそれでも俺は嫌だ。そんなわけの分からない新興宗教だか風水だか占星術だかしらんが、そんなものに人生を振り回されたくない。
「俺は嫌です。大体、どこまで行けばいいんですか?そもそも、誰が生まれたんですか?」
そんな俺の質問も無視して、ザラスシュトラのおっさんは
「まー、春田君も柏羽君も賛成みたいだし、2対1で可決だな。これがマギシステムというやつだよ。ぐへへへへ」
お前エヴァ見すぎなんだよ。大体柏羽の野郎も行きたいって言ってないだろうが。と、柏羽の方を見ると、既に携帯で空港までのダイヤを調べてる始末。てか飛行機乗るのか?俺、飛行機はルフトハンザ以外いやだぜ。
さて、どうやってこの状況を打破しようかと考えていたら、
「じゃ、そういうことで、頼んだよ。旅費は清算するからちゃんと領収書もらっとけよ。あと、これが見舞いの品だ。一人一つずつ用意してある。じゃあな。」
て、おい、帰るなよ。俺がダッシュザラスシュトラをひき止めに行こうとしたら、春田と柏羽の野郎が俺を羽交い絞めにして、ニヤニヤしながら
「分かってるよね〜」
なんてほざきやがるから、その間にザラスシュトラはドクターコパの家にでも行ってしまったのだろう。角を曲がって見えなくなった。俺もようやく観念して、ザラスシュトラから渡された袋の中を覗いてみた。ジバンシーの香水が入っていた。なんで誕生見舞いにジバンシーなんだよ。

この後、あんな大冒険が待っているとは、俺たち三人は思いもよらなかったのです。次回「キリストと聖徳太子の共通点」の巻。
引用:新約聖書(超共同約)マタイによる福音書:2-1

なおこのお話はフィクションに限りなく近いなにかです。